アバランチコントロール(Avalanche Control:雪崩制御)とは、スキー場などの管理された区域での雪崩発生を防ぐために、一般の利用者がいない時間に人為的に小規模な雪崩を発生させ、災害・人災を防ぐ雪崩対策です。
雪崩とは
雪崩とは、自らの雪の重みにより、雪が斜面を崩れ落ちる現象です。
雪崩の速度は、表層雪崩で時速100~200km、全層雪崩でも時速40~80kmと言われており、遭遇したら逃げ出すことはほぼ不可能です。
大きな雪崩だと村を飲み込む規模となり、1918年に新潟県かぐらスキー場近くの三俣村(現湯沢町)で、死者155名の大惨事となった、三俣の大雪崩がありました。
種類
雪崩安全に係わる非営利の専門団体 日本雪崩ネットワークでは、一般的な雪崩の種類を次の6つの言葉の組み合わせで区分しています。
点発生と面発生
発生の際、ある一点から始まるか、ある範囲が面として動き出すのか。
スラブ(状の性格を持った雪層)が形成されていれば、面発生になります。
乾雪と湿雪
雪崩れが乾いているのか、濡れているのか。
濡れているとは、雪粒の周囲に水が存在していることを意味します。
表層雪崩と全層雪崩
積雪の雪面に近い上層が雪崩れるか、積雪の底から積雪すべてが流れるか。
全層雪崩の場合、雪崩が発生した場所の地面などが露出します。
発生原因
発生原因は様々でが、最終的には雪の重さに耐えられなくなり、雪が崩落を始めることにより雪崩が発生します。
頑張って斜面に張り付いていた雪が、さらに雪が降り積もり自重が重くなる、支えていた部分が何らかの要因で切断されるなどです。
春になると雪崩が起きやすくなるのは、気温変化により、雪の中に層(柔らかい部分と硬い部分)ができやすく、その部分が滑りだす(表層雪崩)からです。
雪庇の崩落
張り出した雪庇が崩落することにより、落下地点の上下で雪の結合が切断され、下部から雪崩が発生する。
人の移動、滑走
人がトラバースを行うと、斜面に水平に亀裂が入ることになり、その下部より雪崩が発生します。
滑走中も同様な理由で雪崩が発生する可能性があります。
花火(音)
花火の爆裂音により、衝撃波が発生し、雪崩を誘発することがあります。
新潟県湯沢町では、毎週末、スキー場で花火が打ち上げられますが、花火の号玉(サイズ)が制限されています。
氷河の崩落
海外の氷河のある地域では、陸上の氷河が崩落することが起因となり、大規模な雪崩が発生することがあります。
発生場所
雪が降れば、どこででも、たとえ森の中でも雪崩は起こる可能性があります。
圧雪を行っているゲレンデが起点となって雪崩が起こることはまずありませんが、ゲレンデ外で雪崩が発生し、ゲレンデ内が被害にあうことがあります。
もちろん、ゲレンデ内でも非圧雪エリアは、何もしなければ雪崩が発生する可能性が高まります。
アバランチコントロール
雪崩の発生を防ぐ方法はありません。
従って、アバランチコントロールとは、小規模な雪崩を人為的に発生させることにより、大規模な雪崩の発生を食い止めることになります。
スキー場の場合、圧雪車が整備を行うゲレンデが起点となる雪崩が起こることはほとんどありませんが、未圧雪のゲレンデ、ゲレンデ上部の斜面からゲレンデに雪崩が流れ込んでくる可能性があります。
雪庇落とし
パトロールが行っているアバランチコントロールの一つです。
雪が降り続くと尾根沿いに雪庇ができることがあります。
ある程度の大きさになると自重で雪庇が崩落し、雪崩が発生する可能性があります。
早朝など、ゲレンデに人がいない時間を見計らい、大きく成長する前に雪庇を踏み落とすことで雪崩のリスクを低減します。
斜滑
木々の少ない、あるいは造成した法面など雪崩の起きやすい斜面で、数十メートル間隔で斜面を端から端まで横切ります。
このことにより、雪の結合が弱くなっている部分に小さな雪崩を発生させたり、雪の塊(スラブ)が小さく分断されることで軽くなり、雪崩が発生しにくくなります。
爆薬
雪崩が起きやすいところに爆薬を仕掛け、導火線を通して離れた場所で起爆し、雪崩を発生させます。
人が行くことができない岩場などでは、上部から爆薬を投げ込みます。
海外では、ヘリコプターから爆薬を投下することもあります。
大砲
30年近く前、カナダのウイスラー Harmony Bowl で行われていたアバランチコントロールが豪快でした。
降り続いた雪が止み青空が見えだした朝、ウイスラービレッジ中に、ドカーン、ドカーンという音が鳴り響きます。
1発、2発ではありません。
10発以上でしょうか、すり鉢の底に固定された大砲からクリフ(崖)に向かって砲弾を発射します。
当時、ウイスラーに住んでいましたが、この音が街に響き出すとスキー場へダッシュです。
普段はあまり滑らない、ましてやリフトに並ぶことのない地元の人々が、長蛇の列を作ります(^^)
山岳道路で雪崩が道路に達しないように、アバランチコントロールを行っています。
雪崩発生ポッド
フランスMND社が新潟県のロッテアライリゾートに、宇宙ステーションのようなポット型遠隔制御式アバランチコントロールシステムを導入したことがニュースになっていました。
MNDは、ヨーロッパアルプスで培われた技術力で、ロープウェイ、スノー(降雪)、セーフティー(安全)、それとレジャーの4つの分野で世界をリードする企業です。
MND SAFETYブランドによる雪崩予防および制御で世界No.1の、最新のアバランチコントロールシステムがOBell’X™(オベリスク)です。
オベリスクは、山中に設置された専用の土台の上に置かれ、遠隔操作によりポッドに内蔵された水素ガスと酸素ガスを反応させることにより爆発を起こし、人為的に雪崩を発生させます。
海外の設置例をみると、年に1度程度ガスの再充填を行い、ヘリコプターで設置を行っているようです。
雪崩予防柵
造成を行った法面は摩擦係数が小さく、雪崩易い状況になっています。
そのような場所に、雪崩予防柵を設置することで、雪崩の発生を抑えます。
スキー場よりも、道路脇の斜面で見ることが多いと思います。
救命機器
バックカントリースキー・スノーボードをしていると、いくら気を付けていても、雪崩に巻き込まれることがあり得ます。
万が一の備えとして、救命機器の携帯は必須です。
雪崩ビーコン
トランシーバーの一種で、雪山に入る時にスイッチを入れ、電波を発信する装置。
万が一雪崩に巻き込まれた場合、雪崩ビーコンから発せられる電波を元に救難活動を行われます。
また、雪崩ビーコンはスイッチを入替えると受信機となり、雪崩に埋まった遭難者捜索に利用します。
何度か捜索の練習を行ったことがありますが、慣れないうちはなかなか発見できませんでした。
熟練した者が複数人いれば、素早く発見可能です。
雪崩救助犬
人間の100万倍以上と言う、犬の嗅覚を頼りに雪崩に埋まった人を探します。
災害救助でも大活躍するように、犬の能力は大変高いものです。
ただ、山の中で発生する雪崩の現場に雪崩救助犬いること稀です。
エアバック
雪崩に巻き込まれた場合、自力脱出はまず不可能です。
雪崩ビーコンを着けることにより、救助してもらえる可能性を上げることはできますが、それでも雪崩で雪に埋まってしまうと10分がタイムリミットと言われています。
(20分から急に生存率が下がるという説もあります)
エアバックを装着することで、雪崩の中に巻き込まれにくくなり、あたかも浮き輪が浮くように雪崩の表層に留まることができます。
SCOTT PATROL E1 40 BACKPACK KIT
肩にある紐を引くと、電動式ファンが回転し、40Lのエアバックが開きます。
AEROSIZE VEST ONE
ポーランドのAEROSIZE社が開発した、装着可能なハイブリッド構造のアバランチエアバッグAEROSIZEシステムです。
同社の特許に基づき、部品の小型化に成功し、着脱が容易になりました。
動作の様子です。
ハイブリッド・エアバッグテクノロジー
カートリッジから放出される圧縮ガスは、アバランチエアバッグのフレームのみを膨らませます。
フレームが広がることで、周囲の空気が流入し、エアバックが完成します。
ハイブリッド・エアバッグフレーム
人が持っているフレームが、エアバックの中に入っています。
仕様と価格
仕様
- アバランチエアバッグ容積(拡張時):174 リットル
- カートリッジからのガス充填時のフレーム容積:32 リットル
- カートリッジのアルゴンガス総量:51 g(25.5 gが2個)
- アバランチエアバッグの膨張時間:3 秒
AEROSIZE | Vest ONE – Extended Kit (cylinders for 2 inflations included)
- 定価:649ユーロ~(約92,000円~)
HP(英語)
ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム
遭難者が携帯電話の電源をオンにしている時に有効な捜索手段で、雪崩に埋もれた場合も捜索可能です。
ソフトバンク株式会社と双葉電子工業株式会社は、国立大学法人東京工業大学工学院藤井輝也研究室と共同で、地震や台風に伴う土砂崩れなどにより遭難された方や要救助者の捜索を支援することを目的に、ドローン搭載バッテリーで運用していた「ドローン無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」を地上からの有線給電で運用することで、ドローンを長時間飛行させながら、土砂やがれきの中に深く埋まったスマホの位置を特定する有線給電ドローンシステムを開発しました。
プレスリリース「土砂やがれきに深く埋まった遭難者のスマホの位置をドローンで特定するシステムの実証実験に成功」 はこちら
最後に
スキー場の中では雪崩を気にする必要がありませんが、バックカントリーは自己責任エリアでいつ雪崩にあってもおかしくありません。
必ず複数人で、装備など十分な準備して雪山に入るようにしてください。
雪崩に関する情報を提供しているサイトです。
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