例年、早いスキー場は10月にオープンします。
もちろん天然雪ではなく人工雪ですが、人工雪には2種類あります。
それは、氷を砕いてつくられた雪のように見える氷の粒と、空気中に放出した水分を凍らせた雪です。
プラスの気温で氷を砕いてゲレンデに撒く装置が人工造雪機、氷点下で雪を降らせる機械が人工降雪機になります。
また、近年、プラスの気温で(氷ではなく)雪を造る機械も現れました。
人工造雪機(アイスクラッシャー)
氷を砕くタイプ
人工造雪機は巨大な冷凍庫で氷を造り、それを砕いて雪を造ります。
ICS(Ice Crusher System)、アイスクラッシャー(氷粉砕機)とも呼ばれます。
プラスの気温でも稼働可能で、夏に行われる雪まつり用の雪や、スキー場のゲレンデ造りに活躍します。
スキー場の場合は大量の雪が必要になるので、工場のような専用の建物で氷を造り、砕き、そして風圧で搬送してゲレンデに撒きます。
ゲレンデの下地を造るときは溶けにくい大粒な氷、ゲレンデの表面には細かい氷を撒いていきます。
シーズン初めに巨大な雪の山ができているのがこのタイプで、その雪山をピステンで均しゲレンデにします。
一方、氷を撒くことから、どうしても雪を滑っている感覚とは違ったものになります。
しいていけば、春スキーをしているような感じです。
10月にオープンするイエティをはじめ、11月にオープンする狭山スキー場、軽井沢プリンスホテルスキー場や西日本のスキー場は人工造雪機を導入しています。
巨大な、かき氷製造機ですね(笑)
造雪能力
この人工造雪機、どのくらいの製造能力があるのかスキー場の発表資料を探してみました。
非公式のデータは、信頼できる方がSNSで明らかにしたもので間違いない数字と考えられます。
ユートピアサイオトの人工造雪機はフル稼働をしていないので、公表しているスキー場ではイエティが最大で1日に650トンの雪を造ることができます。
- 広島県 ユートピアサイオト :1420トン/日
(現在は350トン/日:非公式) - 広島県 めがひらスキー場 :1000トン/日以上(非公式)
- 岐阜県 鷲ヶ岳スキー場 :950トン/日(非公式)
- 静岡県 スノーパークイエティ:650トン/日
(山頂400トン/日、中腹150トン/日か?) - 滋賀県 グランスノー奥伊吹 :525トン/日(2024/25シーズン増設)
(100トン/日 x 3、45トン/日 x 5) - 大分県 くじゅう森林公園スキー場 :460トン/日(Xのポスト)
(60トン/日 x 6、25トン/日 x 4) - 長野県 軽井沢プリンスホテルスキー場:450トン/日
(100トン/日×1、50トン/日×7) - 滋賀県 びわこ箱館山 :450トン/日(非公式)
- 兵庫県 六甲山スノーパーク :240トン/日
- 埼玉県 狭山スキー場 :200トン/日(2022/23シーズン更新)
- 長野県 菅平スノーリゾート :176トン/日(推定)
(48立方メートル/日x4基:詳細不明)
スノーパークイエティ
造雪期間:7日
造雪量 :4,550トン(650トン/日 x 7日)
融雪後 :
ゲレンデ:Aゲレンデ(公称 1,000m、実測 700m)
ここでイエティを例にとって造雪能力を検証をしてみましょう。
氷は、同じ重さの水よりも約10%体積が多く、また、ゲレンデに雪を敷き詰めた場合、隙間に空間ができるので体積がより大きくなります。
一方、0℃以上の温度で雪をゲレンデに撒いているので、溶けて減る分があります。
これらを相殺して、単純に「1トンの氷=1立方メートル(1m x 1m x 1m)」として考えます。
イエティのゲレンデ長+リフト乗降場付近は約700m(公称1000m)です。
積雪を50cmと仮定すると1日約1.9mの幅のゲレンデを造ることが可能です。
(幅)1.86 m =(造雪能力) 650 トン/((長さ)700 m x(厚さ)0.5 m)
約1週間でゲレンデが完成させたということは、幅は約13mでオープンしたと推測できます。
(幅)12.9m=1.3m(幅/日)x7(日)
スノーパークイエティの人工造雪機
軽井沢プリンスホテルスキー場
造雪期間:約30日間
2024年10月4日~10月7日 :2基稼働
2024年10月8日~10月31日:全期稼働
造雪量 :11,200トン(100トン/日 x 4日 + 450トン/日 x 24日)
融雪後 :6,000トン
ゲレンデ:くりの木コース(383m)
:プリンスゲレンデ(376m)
軽井沢プリンスホテルスキー場は、1日450トン(100トン/日×1、50トン/日×7)の雪を造り、28日間で約6,000㎥の雪を造ります。
六甲山スノーパーク
造雪期間:約40日間
2024年10月21日~11月29日
造雪量 :9,600トン(240トン/日 x 40日)
融雪後 :
ゲレンデ:第1ゲレンデ
狭山スキー場
造雪期間:約40日間
2024年9月24日~10月31日
造雪量 :7,600トン(200トン/日 x 38日)
融雪後 :6,000トン
ゲレンデ:(約300m)
狭山スキー場は、6,000トンの雪山を造り、最後に雪山を均しゲレンデ(厚さ:0.7m)を造ると発表しています。
参考:造雪機改修前
10,000トンの雪を撒き、6,300トンの雪でゲレンデ(300m x 30m x 0.7m)を造成。
造雪能力が200トン/日なので、50日でゲレンデがオープンです。
雪を直接作るタイプ
もう一つ、プラスの温度で雪を造る方法があります。
詳細は公表されていませんが、水を凍らすことなく連続して造雪が可能です。
以前から同様なコンセプトの製品はありましたが、ゲレンデを造れる量の雪を造るシステムを製造したのは初だと思います。
Demaclenko SNOW4EVER 200
造雪機メーカー
アイスマン株式会社
本社 :福岡県久留米
ブランド名:プレート製氷機 PHGタイプ
納入先 :狭山スキー場(埼玉県)
スノーパークイエティ(静岡県)
軽井沢プリンスホテルスキー場(長野県)
スノーウェーブパーク白鳥高原(岐阜県)
スノーパーク雲辺寺(廃業:香川県)
九重森林公園スキー場(大分県)
アイスマン株式会社は、1956年に福岡県久留米市で設立された産業用製氷機専業メーカー最大手です。
現在、大型の人工造雪機を造っている会社は国内で1社のみ(*)です。
産業用製氷機に「自然冷媒」を採用したノンフロン冷凍機を、株式会社前川製作所との共同開発しています。
*夏のイベント用など、小型の人工造雪機メーカーは他にあります。
株式会社前川製作所
本社 :東京都江東区
ブランド名:ー
納入先 :六甲山スノーパーク(兵庫県)
2017年、六甲山スノーパークが前川製作所製造雪システムを導入したとニュースリリースをだしました。
しかし、同社のHPには人工造雪機の記載がありません。
MND(Montagne et Neige Développement S.A.)
本社 :フランス
販売代理店:
ブランド名:Blizzard Factory
納入先 :菅平高原スノーリゾート(長野県)
2023年、コンテナ型の全天候型スノーメイキングシステムBlizzard Factoryが4台、菅平高原スノーリゾートに日本初導入されました。
人工造雪機導入! 10月21日(土)オープンを目指す 菅平高原スノーリゾート はこちら
TechnoAlpin AG
本社 :イタリア
販売代理店:
ブランド名:SnowFactory
納入先 :グランスノー奥伊吹(滋賀県)
最大サイズのもので、1,000 m³/日の造雪が可能です。
2023年、グランスノー奥伊吹がSnowFactoryを導入しました。
DEMACLENKO IT srl
本社 :イタリア
販売代理店:
ブランド名:DEMACLENKO(デマクレンコ)
納入先 :ダイナランド(岐阜県)
イタリアのライトナーグループの企業で造雪機・降雪機を製造しています。
ライトナーグループは、ロープウェイ、リフト、圧雪車などを製造するスキー場設備の老舗企業です。
国内で人工造雪機の販売活動を行っていますが、2023年10月時点で常設しているスキー場はありません。
Industrial Frigo Ice Srl
本社 :イタリア
販売代理店:コーエィ株式会社
ブランド名:Snowvolution
導入 :菅平高原スノーリゾート(長野県)
2024年7月、コーエィ株式会社が国内販売代理店になったと発表がありました。
人工降雪機
気温が氷点下で、空気中に水分を霧状に散布し、その水分が凍ることにより雪を降らせます。
人工降雪機も2つのタイプがあります。
いずれのタイプも降雪機まで大量の水を引いてくる必要があるため、ゲレンデのどこかに大きな溜池があります。
2020年に志賀高原渋峠・横手山スキー場が人工降雪機を導入しました。
気温を考えると、最も標高の高い渋峠エリアに降雪機を設置した方が早くスキー場をオープンできるのですが、山の上なので十分な水源が無く、降雪機は横手山エリアの海和ゲレンデに設置されています。
降雪機の導入でスキー場をオープンを早めることができ、小雪の年はオープン後も可動しています。
また、造雪機に比べて、天然の雪に近い感覚で滑ることができます。
ファンタイプ
大型のファン(扇風機)で水分を撒くタイプです。
ファンを台車等で運搬する固定式と、キャタピラなどで動く自走式があります。
ファンタイプは扇風機を稼働する必要があるので電源が必要です。
ガンタイプ
ガンタイプは水分を圧縮空気で運び、空中に霧状に放出します。
ガンはゲレンデの端に設定されています。
降雪能力
人工降雪機の能力を、国内最大手 樫山工業の製品ラインナップの中で、最大の降雪能力を持つKB-911のスペックです。
降雪性能(KB-911) | |||||||
気温(乾球/湿球) | -0.5/ -1.5 |
-1.0/ -2.0 |
-2.0/ -3.0 |
-3.0/ -3.9 |
-4.0/ -4.8 |
-5.0/ -5.8 |
-10.0/ -10.5 |
降雪量(m³/h) | – | 10 | 14 | 20 | 26 | 32 | 52 |
使用水量(L/min) | – | 80 | 120 | 170 | 220 | 270 | 435 |
樫山工業 HPより
この数字だと人工造雪機の能力と比較しにくいので、1日あたりの使用水量(トン)に換算します。
降雪性能(KB-911) | |||||||
気温(乾球/湿球) | -0.5/ -1.5 |
-1.0/ -2.0 |
-2.0/ -3.0 |
-3.0/ -3.9 |
-4.0/ -4.8 |
-5.0/ -5.8 |
-10.0/ -10.5 |
使用水量(L/min) | – | 80 | 120 | 170 | 220 | 270 | 435 |
使用水量(トン/日) | 115.2 | 172.8 | 244.8 | 316.8 | 388.8 | 626.4 |
なんと、イエティにある巨大な造雪機(650トン/日)が造る雪を、たった1台の人工降雪機(626.4トン/日、マイナス10度の時)が降らせることができます。
ただ、人工降雪機の性能は気温により大きく変動し、マイナス1度だと、マイナス10度の時に約1/5の性能に落ちてしまいます。
降雪機にとって、気温がものすごく重要になってくることがよく分かります。
注)水を雪する時に嵩が増える点、氷点下でも地熱で雪が融ける点、風で雪がゲレンデ外に飛ばされる点などは考慮していません。
降雪機メーカー
樫山工業株式会社
本社 :長野県佐久市
ブランド名:KBシリーズ
国内最大手、というよりも現在国内では唯一の人工降雪機メーカーです。
1978年に国産初のスノーマシン完成させ、累計約3,000台を製造しています。
DEMACLENKO IT srl
本社 :イタリア
販売代理店:スノーソリューションズ株式会社
ブランド名:DEMACLENKO(デマクレンコ)
DEMACLENKOは、2011年にDemac社(イタリア)とLenko社(スウェーデン)の2社が合併して誕生しました。
2023年、販売代理店が、株式会社TRM(TAJIMA RESORT MANAGEMENT)からスノーソリューションズに替わりました。
HKD SNOWMAKERS
本社 :アメリカ
販売代理店:樫山工業株式会社(スノーガン)
ブランド名:HKD
Herman K. Dupré (HKD)が創業した会社です。
MND(Montagne et Neige Développement S.A.)
本社 :フランス
販売代理店:東海ルフト株式会社
ブランド名:SUFAG
MNDの4つの事業領域の一つ MND SNOWは、SUFAG(オーストリア)、ARECO(スウェーデン)、SNOWSTAR(イタリア)のブランドを持っています。
2023年4月、スノーソリューションズ株式会社のHPがリニューアルし、SUFAGの記載がなくなりました。
Snow Machines Inc.
本社 :アメリカ
販売代理店:スノーシステムズ株式会社
ブランド名:PoleCat、Puma、Wizzards
Latitude90(人工造雪機)
1974年に米国ミシガン州で創業された、人工降雪機大手です。
TechnoAlpin AG
本社 :イタリア
販売代理店:スノーシステムズ株式会社
ブランド名:TechnoAlpin(テクノアルピン)
1990年にイタリアで創業した、人工降雪機大手です。
コメント
イエティは前川製作所のアイスクラッシャーではありませんか?
他の方も前川製作所製では、とおっしゃっていましたが、アイスマン株式会社の公式ブログで、イエティは自社製と紹介しています。
アイスマン製氷機はスキー場でも大活躍
https://iceman.co.jp/blog/453/